カメラ騒動

 昨年(2005年)末、初めてカメラを買い替えた。
 学生時代の鉄道仲間に、中古品を扱う店に通ってやたらとカメラを変える男がいたが、筆者にそんな真似は出来かねる。オーディオであれば、それはアンプとスピーカーを上級機種に変えれば、同じディスクでもいい音で再生してくれるのは間違いない。しかし、カメラを変えたからといって、同じような場面でよりよい写真が撮れる訳ではない。むしろ、使い勝手が変わることによって余計な手間がかかるような気がする。
 それでも買い替えた理由は簡単明瞭で、調子が少しずつおかしくなっていつ使えなくなるか分からない状態だったからである。
 そのカメラはミノルタα-9000。
 1988年の12月に購入したのだから17年間活躍してくれたことになる。オートフォーカス一眼としては第一世代なので、鉄道写真では実用にならず、スクリーンを交換して事実上のMF機として使っていた。AF以外の点ではよく出来たカメラだったと思う。
 最初の異常は液晶表示部にきた(いつごろからかはもはや記憶にない)。といっても、左側からごく僅かずつ黒いものが広がっていただけで、機能面での支障はなかった。
 そろそろ危ないかな、と感じ始めたのは2004年の終わり頃である。どうも、スポット測光を使うと仕上がりが可怪しい。手持ちレンズの都合で、スポット測光のないMF機であるX-700ばかり使っていた時期があるので、勘が鈍ったのかな? とも思ったが、平均測光で露出補正を加えたときには思いどおりの結果が出るのが不可解であった。当面の対策として、スポット測光をなるたけ使わないことにした。
 2005年秋になって、やはりカメラ側の原因だと断定することになった。
 なにしろ、電源を入れ測光を動かしただけでレバー類を触っていないのに、「P」表示の点滅(プログラム・シフト中を示す)が始まる。あるいは、絞り優先モードF8・1/500秒なんていう条件で「500」の表示が点滅(測光連動外警告)を始める。カメラに向かって「なんでやねん?」と何度呟いたか分からない。電源を入れ直すと正常に戻るものの、甚だ頼りない状態であった。
 12月に入ったある日、ボディの手入れをしていたところシャッター幕に油染みを発見し、見切りをつけてα-7(フィルム用)を買った。某量販店の「買い替えセール」とやらを利用したため、動作の怪しくなったα-9000は5000円で店側に買い取られた形になった。
「ボディだけで結構ですから、これは予備にでもして下さい」と、店員はボディ・キャップを手渡し、ミラーの剥き出しになったカメラを無造作に奥の棚へ置いた。機械とはいえ北海道から九州まで行動を共にし、17年間付き合った相手だけに、妙な寂しさを感じたものである。
 新しいα-7の方は、何世代も後の機種だから当然とはいえ、機能・性能ともたいしたものである。ひとつ困ったのは、ボタン類が多過ぎるため雨のときには怖くて使えないという点であった。これまで使っていた機種なら、傘をさした上でボディ上に折り畳んだタオルを載せておけば十分だったのが、α-7だとそれでは危なっかしいのである。防滴性能を謳った上位機種α-9には価格面で手が出なかったし、9000も防滴構造にはなっていなかったので深く考えなかったのは迂闊であった。
 Xシリーズ用のMDレンズはズーム2本、後から買ったαレンズは単焦点主体でF1.4〜F2.8が大半。なのに悪天候ではMDレンズしか使えないというのはいかにも具合が悪い。どうしたものか思案していたら、なんと「(コニカ)ミノルタのカメラ」が消えるというニュースが飛び込んできた。
 デジタル一眼はソニーへ譲渡だが、フィルム・カメラは完全消滅である。
 発売開始からさほど年月を経ていない機種については、コニカミノルタかソニーか、いずれかが面倒を見ることが法令で義務づけられている筈だが、X-700はそろそろ危ない。故障したらそれでお陀仏かもしれない。
 初めに考えたのは、X-700とMDレンズを手放し、防滴構造のα-9中古品を買うことである。
 しかし、いかんせん高い(新品α-7よりも値が張る)し、金属ボディのため重い。カメラは3台も要らないが、MF機を置いておきたい気もする。α-9の価格相当分以下で中古MDレンズの明るいものを揃えるという選択肢もあるけれど、話が元に戻ってカメラ自体の故障が怖い。
 あれこれ考えながら、新品αレンズがえらい勢いで店頭から消え始めたのに恐れをなして標準ズームレンズを買い足したりしていたところ、通勤経路上にある某百貨店の催しで中古カメラの販売があり、そこでα-9000を見つけた。勝手知ったる相手だから、これには食指が動いた。値はα-9の僅か5分の1である。
 MDレンズも色々並んでいたので、まずはそれを見せて貰いながら、迷っていることを話してみた。すると、初老の店員は即座にこう答えた。
「いやぁ、X-700をお持ちなら、そちらを大事にお使いになった方が……。手元に最後まで残るのはMF機ですよ」
 要するに、自分のブースで売っているα-9000は「買うな」という訳で、その言い草に感心してしまい、偶然にも同じ価格のMDレンズ・45mmF2を買った。
 「コニカミノルタフォトイメージング株式会社」が存在するうちにと、売却方針から一転してX-700を整備にも出した。AF速度の向上ゆえに部品摩耗も早そうなα-7より長持ちしたら愉快だなと、妙な期待をしていたりする。今後、フィルムの入手が少しずつ困難になってくるかもしれないけれど、オーディオ分野におけるアナログ・レコードと同様、そう簡単に完全消滅はしないだろう。後は、DPE店が「デシカメ撮ったらお店でプリント」に活路を見出して生き延びてくれることを願うのみである。
 後記。その後、X-700用に135mm単焦点F2.8(もちろん中古)を購入。これで悪天候時の撮影にも万全の態勢が整ったけれども、最小絞りがF22、X-700は最高シャッター速度1/1000とあって、ISO400フィルム使用中に雪晴で撮影不能になりかけた(笑)。
 2016年夏に愛用の「フジクローム400」が生産打切りとなり、しかもコニカミノルタの技術陣を引き継いだソニーは移行後に開発した「Eマウント」へ力点を移してしまい、手持ちのミノルタ製αレンズがゴミとなるのでは……と恐れをなし、追い詰められたような形で2017年3月にα-77IIのボディを購入。α-7はフィルム20本ほどの活躍に終わってしまった。いいカメラなんだけど……

 

 案の定、"ミノルタのレンズ"が使えるAマウントの機種は消滅。この"ソニーミノルタ"はいつまで活躍するか。それにしても「SONY:α-7」は型番の使い回しが早過ぎる。

 

 

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