*Kai-chanの鉄道旅情写真館・異次元のページ*

心に残るこの1枚・第3回

カルロ・マリア・ジュリーニ指揮
バイエルン放送交響楽団

シューベルト
交響曲「未完成」
交響曲第4番「悲劇的」

(1995年録音/ソニークラシカル)

 

 Symphony No.7(8) in B minor "Unfinished"
 店頭でこれを見つけたときには、どの曲が入っているのかを理解するのに10秒ほどかかった。交響曲作家としての評価が今一つ定まっていないせいか、シューベルトの交響曲に厄介な問題がある。
 あれはまだ高校生の頃であった。新聞のFM番組表を調べて「シューベルトの交響曲第7番」という未知の曲を聴こうとステレオの電源を入れたところ、LPを持っている「交響曲第9番『ザ・グレート』」と同じ曲が始まったのに驚いたことがある。
 数日後、音楽の授業が終わった後で教師に尋ねてみたら、
「作曲順とか発表順とか、いろいろ付け方があるようだね。ドヴォルザークの『新世界より』だって5番になっていたりするでしょう」
 と逃げられてしまった。
 音楽科のM先生は、かつてプロの楽団でヴァイオリニストをしていたという「現場」の人であったし、高校生ともなれば、教師が専門分野で知らないことがあるのに驚いたりはしなかったけれど、謎は謎として残り、ずいぶん後になるまで解けなかった。
 ドヴォルザークについては、作曲者の死後になって初期の交響曲作品が四曲も発見され、その価値が認められて、番号が「順送り」になったもので、比較的分かりやすい。しかし、シューベルトの場合は話がややこしいのである。
 結論から言うと、シューベルトが完成させた交響曲は七曲で、その最後に位置するのが『ザ・グレート』ハ長調。そのため自然と「第7番」なる番号が与えられていたところへ、未完の交響曲が次々に発見されていったことで、番号の混乱が始まったらしい。
 未完作品は六曲にのぼるそうだが、ピアノ・スケッチや断片的な構想に止まっている作品を除外すると、次の二作が残る。
 ホ長調・四つの楽章がすべて不完全で、演奏不可能。
 ロ短調・第二楽章まで完成。第三楽章の途中で途切れ、第四楽章は欠落。
 19世紀半ばには前者のみが知られており、これが「第8番」ということになっていた。もっとも、演奏不可能なためあくまで資料としてあったに過ぎない。そこへ、ロ短調の未完作が発見され、その内容からたちまち有名曲となってしまったのである。
 このとき、処理の仕方が二派に分かれてしまった。
A…演奏不可能なホ長調交響曲から番号をはずし、ロ短調(いわゆる未完成交響曲)を8番とする。
B…作曲過程に関して新たな事実が発見されたこともあり、成立年代順に並べ換えた。このことにより、7番・ホ長調(演奏不能)、8番・ロ短調「未完成」、9番・ハ長調『ザ・グレート』となる。
 どちらを採用するにせよ、有名な「未完成交響曲」が8番であることには変わらず、むしろそれが混乱状態を20世紀にまでひきずる要因であったのかもしれない。録音(LP→CD)では圧倒的に「9番『ザ・グレート』」が多く、NHKがこれを採用していないため放送では同じ曲が「7番」となってしまうのだ。
(面白いことに「7番『ザ・グレート』」というタイトル付きの表記はほとんど見かけない。おそらく、ここにも何か理由があるのだろう)
 詳細な譜例まで載っており筆者の読譜力では半分も理解できぬ書物を買い込んだりしたお蔭で、長年抱えていた謎は解けたものの、20世紀も末になってさらに事態は複雑な様相を呈しているようだ。
 最新の研究成果を反映させた全集版楽譜(1978年)では、
 7番・ロ短調「未完成」、8番・ハ長調『ザ・グレート』、無番・ホ長調
 となっており、その新全集を使った演奏なのかどうか、このジュリーニ盤では「7(8)番」となっている。
 ややこしきこと、かくの如し。
(演奏内容にまったく触れていないけれど、実はこの文章、文芸同人誌に何本か掲載した「音楽エッセイ」用に書きながら、「マニアック過ぎる」と編集側からクレームがついて没になった作品からの抜粋(一部改編)なのである。次回は手抜きせず書き下ろす予定)

 

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