*Kai-chanの鉄道旅情写真館・異次元のページ*

心に残るこの1枚・第4回

ゲンナジー・ロジェストヴェンスキー指揮
ソヴィエト国立文化省交響楽団

ブルックナー
交響曲第4番「ロマンティック」

・1874年版(第1稿)
・1878年版第4楽章
・マーラー編曲版

(1984・87年録音/メロディア~BMG)

 

 CD店が独自に付けている商品のPRというものは、音楽雑誌の新譜評に輪をかけてディスクを選ぶ際の参考とはならないものだけれど、ときに吹き出したくなるものもあって、それなりに面白い。
 記憶に残っている「名作」のひとつ。
『あのアシュケナージかとうとうブルックナーに着手。しかもいきなり「ヘ短調」!』
 このページの読者ならご存知かと思うけれど、アシュケナージは「ブルックナーはアマチュア作曲家だ」と発言している(これを「あんたがアマチュア指揮者や、と言いたくなるな」と評した知人がいた)。それが「とうとう」ブルックナーを録音したというのだから、PR材料にはなるだろう。もっとも「交響曲ヘ短調」はいわゆる習作であり、初めてこれを聴かされて作曲者を当てられる人はいないと思われる。
 要するにブルックナーらしくない訳で、だからこそアシュケナージが振ったのだろうし、これを機に他の作品にも手を着けるとは考えにくい。
 あるとき、この種のPRで『ロジェストヴェンスキーの「ロマンティック」』という見出しが目に入った。
 ロジェストヴェンスキーの「ブル4」といえば、確かマーラーが編曲したスコアで振ったのではなかなったか? と気になってディスクを手に取ったところが、まずご覧のようなジャケットに唖然とした。
 -なんじゃこりゃ!?
 断っておくが、これはロシア製の輸入盤などではなく、裏には日本語で曲目が記された国内盤である。ジャケット面を読める日本人がどれだけいるのか怪しく、言い換えれば、本当に正しいロシア語表記なのかも疑問。あるいは、メロディアの原版がこのようなデザインだったのか……。
 ともあれ、マーラー版だけなら少し迷ったかも知れないけれど、1874年版(第1稿)を併録、さらに1878年版の第4楽章という「幻の楽章」が聴けるとあっては、これは買わない訳にはいかぬ。
(詳しい作曲・改訂経緯は専門書をご覧下さい)
 それにしても、2枚組に同じ曲の異稿を3種類(一つは第4楽章のみ)収録、しかもそこに一般的な「1878/80年版(第2稿)」が含まれていないとは、恐ろしくマニアックな商品である。
 筆者はそれを大喜びで買った訳だが。
 1874年版(第1稿)の演奏としてはインバル指揮のものが名高いけれど、このロジェストヴェンスキー盤は、第1稿の演奏がいかに難しいかを知るのに最適である。共産ソヴィエトの楽団とあって、どうも20世紀前衛音楽の演奏経験に乏しいらしく、音感やリズム感に背いて楽譜を機械的に音にすることが出来ないらしいのである。この稿では、第4楽章に「スコアの縦の線」が合わない5連音符が頻出するのだが、アンサンブルが崩壊寸前で、まことにスリリング。最も演奏至難と言われるコーダでは、5連音符なのにトランペットが4回しか鳴っていない小節があったり、5回鳴っているホルンもだんだん小節の両端に休符が入って、5連音符が「まん中」に寄ってきたり……
 考えてみると、19世紀にこれを演奏して貰おうとしたのだから、やはりブルックナーというのはたいした人物である。
 一方、マーラー版の方は、ブルックナー愛好度を計るのに最適な演奏といえる。特に、普通の「ノヴァーク版IV/2」と小節数が同じ(とされている)第1楽章を聴かせてみて、途中で吹き出す人、何だこれは? と突っかかる人は間違いなくブルックナー・マニアであろう。
 まったく、最後の最後まで楽しめる。実は、初めて聴いたとき、筆者は第1楽章のコーダで「うおおっ」と叫んでしまった。なにしろ、ホルンの「背景」となる全合奏の和音ひとつがまるごとカットされているのだ。いかにもマーラー的ではある。第2楽章以降はカットが多すぎて、終楽章などいいところが全部なくなった感じかするけれど……。
 もう一つの異稿、1878年版の第4楽章は「出来の悪さ」が微笑ましい。
 音楽展開がブツ切りというスコア自身の問題もさることながら、音質=録音状態が非常に悪いのである。1987年録音ということは、ソヴィエト連邦の崩壊も間近。一応デジタル録音ではあるらしいのだが、ソ連の民生技術はこの程度だったのかと、妙なことに感心してしまった。
 あらゆる意味で「楽しめた」ディスクである。

 

このページに対するご意見・ご感想はこちらへどうぞ。

バックナンバー保管庫へ戻る際はタブまたはウィンドウを閉じて下さい