あるテレビ番組の映像から。
石積の機関庫から2両の蒸気機関車が勢いよく飛び出した。一方は大型のテンダ機、他方は小さなサドルタンク機である。場所はイギリスかどこかの保存鉄道らしく、複線の線路上、2機は競争を始めた。機関室から相手方に野次を飛ばす機関士、忙しく石炭をくべる機関助士。景気づけ(?)に鳴り響く汽笛、せわしく回転する動輪。先行していたサドルタンク機を、やがて加速のついてきた大型テンダ機が追い抜いて行く。サドルタンク機に手を振る機関士は余裕の表情。ところが、さあ困った。もう石炭がない。助士はショベルを投げ出し、テンダの隅っこに転がるのを手で拾い集めるが、大きなボイラーはそれらを一瞬にして飲み込んでしまう。速度を落としつつ惰性で走るテンダ機に、後からサドルタンク機が追いついてきた。まだ余裕のある石炭を機関士が両手に持って、テンダ機に向かって振ってみせる。力尽きて停車したテンダ機、悔しがる機関士たちを尻目に、サドルタンク機はちょこちょこと走り去った・・・。
大小蒸機が石炭を満載した時の走行可能距離等、設定が「現実的」かどうかはともかく、いったい何の番組かというと、鉄道とは本来あまり縁のない「筈の」ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団2001ニューイヤー・コンサートの中継映像なのである。よくバレエ映像が流れることはあるが、こんなのは初めて見た。もちろん脈絡がない訳ではなく、かの映像は、J.シュトラウス作:ポルカ「観光列車」演奏時に流れていたものである。演奏は生中継なのに、動輪の動きとか画面の切り替えが曲と完全にシンクロしており、映像処理技術の進歩には感心してしまった。
芸術音楽と鉄道。両方好きな人は案外いるものらしい。「レコード芸術」という雑誌で大船渡線とか米坂線などという文字を見つけたときにはさすがに驚いた。
音楽TVプロデューサーや音楽雑誌記者がいれば、やはり作曲家もいる。
アルテュール・オネゲル(1892−1955)。Honeggerという綴りから想像されるようにフランス生まれであるが、両親はスイス人である由。
この人の代表作に「パシフィック231」というのがある。なんと蒸気機関車を題材にした描写音楽なのだ!(と言い切るのはマズいのだけれど、まあ話の都合上そういうことにしておく)
音楽関係の(あまりマニア向けでない)書籍には、「巨大な機関車パシフィック231が・・・」などと書いてあるので、迂闊にもナントカ・パシフィック鉄道231号を意味するものと思い込んでいたが、あるとき今度は鉄道雑誌でこの曲に触れた記事を発見(どの雑誌かは忘れたが、交響曲と誤記されていた。「パシフィック231」は交響曲ではアリマセン)。なんと、"パシフィック"は機関車軸配置の「アメリカ式」呼称、"231"は今のヨーロッパ流「ホワイト式」で言うところの4-6-2、日本流に言えば2C1ということらしい。
うーむ。いっそのこと"意訳"して邦題を「パシフィック2C1」と表記してはどうか? これなら意味がよく分かる。
もっとも「オネゲルのパシフィック231さぁ、あれはパシフィック2C1と呼ぶべきだよね〜」などと主張して、すっと理解して貰える相手は滅多にいないだろうが。
(画像はM.プラッソン指揮・オネゲル作品集
[EMI]
のジャケット。蒸気機関車の写真でないのが残念?)
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