食堂車で昼食を

 新幹線100系編成の「ひかり」が食堂車の営業を停止した後、日本全国を見渡して「食堂車で昼食が取れる」のは片道一本の不定期列車のみとなってしまった。
 答えをご存知の方も多いだろう。その列車とは、下り「トワイライトエクスプレス」である。上りも室蘭本線を走行中「ティータイム」と称して食堂車が営業しているが、食事は出さない。札幌発は14時過ぎで、バタバタしていて昼食を済ませないまま、また用意もせずに飛び乗ってしまうと、夕刻まで弁当の車内販売もなく絶食になる。何ともお寒い「豪華列車」ではある。
(写真は、編成美という面では疑問符が付く食堂車の容姿。 北陸本線 生地−西入善 2001. 4 15)
 下りは大阪発が12時ちょうどなので、一般的な感覚からしても昼食後に乗る列車ではない。という訳で、13時から食堂車が「ランチタイム」の営業を行う。上り列車は以前から比較的寝台券の確保が容易で、1989年の列車設定以来4度ほどお世話になっているが(「はまなすB寝台」〜「白鳥」乗継と料金に大差がなかった)、下りは2度しかない。最初は学生時代で、まだ九州方面への寝台特急でも「食堂車」が営業しており、ご大層な「ダイナー何とか」には興味がなく弁当持ちで乗ってしまった。
 で、先日、2度目の下り「トワイライトエクスプレス」しかも「ロイヤル」に乗ってきた。夜汽車で出発したくて「日本海1号」のA個室を早くから確保しておいたのだが、出発1週間前「まあ訊いてみるだけ」のつもりで勤め帰りに窓口へ当たってみたところ、
「ハイッ。大阪から札幌まで、A個室ですね」
「はぁ。あれ? 出ましたか」
「ええ。出ましたねえ」
 窓口の女性係員(なかなかの美貌であった)は微笑していたが、さほど珍しいという表情ではなかった。10年前は、夏場ともなると「下りは無理ですよ……」と言われたものだが。
 さて当日。ランチタイムの営業開始は13時で、列車はうまい具合に湖西線を走っている。個室は一部の「シングルツイン」を除いて左手にあるので、琵琶湖を眺めるのには都合が悪い。
 指定された個室は食堂車の隣・2号車であったから、営業開始の放送を聞いておもむろに腰を上げたところ、昼食客の一番手であった。むろん、琵琶湖の見える席に着く。
 メニューを見て、少々がっかりした。
 ランチ・コースがひとつ。後はカレー・スパゲッティ・サンドウィッチ……食事の献立はそれでおしまいなのである。
 気勢をそがれる思いで「ビーフカレー」(1000円)を注文すると、なかなか偉そうにライスとルウが別盛になっている。やや機嫌を直し、ルウをひとすくい飯にかけ、口に運んでみて驚いた。辛い。とにかく辛い。
 甘ったるいのは論外だが、カレーの辛さには旨みが伴わねば意味がない。それがまったくなくて、ただただ辛かった。ルウの大半を持て余し、しからばと具をさぐってみると、小さな肉片が2きれ出てきたきり、もういくらさぐれども具は見当たらなかった。飯もカレーにふさわしくない水っぽさで、どう考えても1000円に値する味ではない。
 2杯目の水を空にし、首筋の汗を拭っていたら、もうお帰り下さいとばかりに慇懃無礼な物腰のウェイターが食器を片付けにかかった。
 窓の外に目をやると、ちょうど「近江中庄」の駅名標が目の前を通り過ぎていくところであった。
 昼食時の食堂車とも琵琶湖ともこの辺りでお別れである。

 後記。2007〜2008年頃から昼食メニューいくらか増えたりはしたものの、列車設定自体が2015年でおしまい。2010年代に入ってから、食堂車の定義がよく分からない状況になり、時刻表だけ見ていると面白いことになってきたようにも感じるのだが、インターネットで詳細を調べると「機会があっても乗りたくない」ものばかり。デザイン感覚もバランス感覚も、水戸岡鋭治とは根本的なところで合わないらしい(なんであんなに人気があるのだろう)。スシ24型と同様の座席配置になっていたら「伊予灘ものがたり」には乗りに行きたいと思ったろうに。

 

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