ニュースはNHKしか見ないことにしている(注。2010年代半ば以降、ほとんど見なくなった)。学生時分、某ユースホステルで何かの拍子にそのことを口にしたら、管理人のおやじが言った。
「NHKはただニュースを伝えるだけだからつまらない」
ニュースというのは事実を伝えてくれればそれでよいのであって、そこから先は個人がそれぞれの価値観に基づいて判断を下すべきものである。キャスターだか何だかに特定の(ときにはひどく偏った)コメントを添えて貰わないと安心出来ないのは知性の欠如である − というようなことを言いかけて、そのときはさすがに出かかった言葉を飲み込んだ。
政治に社会に経済に文化に、ニュース・キャスターが全て精通していることなどあり得ない。もちろん個々のニュースを伝えるにあたって勉強はするのだろうが、それにしてはしばしば可怪しなことになる。厳密には又聞きなのだが、かつて某民放ニュースで「工事凍結の国鉄ローカル線」を特集したことがあり、キャスターは得意げに「こんなことをしているから赤字になる」と語ったそうな。鉄道についてのみ不勉強なのだとは思えないから、万事この調子なのだろう。
もっとも、鉄道カメラマンである南正時のような人でも、
『未成線の多くには官僚の天下りが多くを占める鉄道建設公団と、当時親方日の丸を謳歌していた「国鉄」の責任者不在のなれ合いの構造が見えてくる』
などと「ちょっと待て」と言いたくなることを書いている。ローカル新線の開通式で、国鉄側が「これでまたお荷物が増えた」と公言したり、油須原線のように「割増運賃を認めないなら運営は引き受けない」と国鉄が突っぱねたりした事実は、きれいさっぱり忘れてしまったようだ。
官尊民卑という言葉があるけれど、マスコミはこぞって民尊官卑、民間企業の不祥事さえ監督官庁の責任にしてしまうのだから恐れ入る。そのくせ、並行在来線切り捨てを前提にした整備新幹線など、きちんと問題提起されているケースは稀である。都市間輸送の利益で地域輸送を賄っているバランスを崩し、「都市間輸送は新幹線が引き受けた。地域輸送は沿線で勝手にやりなさい」 − なぜそんな滅茶苦茶が許されるのか。なぜ公器たるマスコミはそれを指摘しないのか。
もっとも、整備新幹線についてはもう「手遅れ」であるけれど。
一方で、外務省に対する批判など甚だ末梢的である。中国・瀋陽での「総領事館駆け込み事件」など、何がそんなに問題なのか筆者には分からない。もし問題があるとすればただ一点、中国の武装警察官が日本側の許可なく領事館内に侵入したことのみ。これとて、警備を中国側に委託している以上、大きなことを言える立場にない(ペルー日本大使館でのたてこもり事件も、多くの国民はきれいさっぱり忘れてしまったのだろうか)。なにより、政府として基本的に難民を受け入れていない以上、他の点はなんら問題なし。国民の多くが「日本は積極的に難民を受け入れるべきだ」と考えているならば話は別だけれど、そんなことはあるまい。受け入れは韓国に任せておきながら「子供が泣き叫んでいるのに指を加えて眺めているとは何事か」などと難ずるのは偽善である。
「ことなかれ主義」というが、在外公館などというのは「ことなかれ主義」でちょうどよいのであって、文化も価値観も異なる人々を相手に原則論や体面を振り回したらどうなるか、ちょっと考えれば分かりそうなものだが。
瀋陽の事件でひとつ益があったとすれば、亡命支援組織に「日本の領事館に駆け込んでも無駄」という認識を植え付けたことであろう。
(適当なものがないので今回に限り画像はありません。前回のように自作するのも面倒で……)
後記。これを書いた当時、NHKの報道内容は公共放送としてそれなりの信用が置けるものだったのだが、2000年代後半からおかしくなってきて、2010年代に入る頃には「AHK(赤旗放送協会)」に改名したらどうか、と言いたくなるほどの左翼思想宣伝局になってしまった。部内で何が起こったのだろう?
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