周遊きっぷ

 2002年9月末をもって、周遊きっぷのうち相当数の「ゾーン」が削減された。最初にこれを知ったのは某電子掲示板の情報によるのだが、そこに記されたアドレス(JR東海のサイト内にあるページであった)にアクセスしてみたところ、理由についてはただ一言『ご利用状況により』とだけある。JTB時刻表やJR西日本の駅頭では理由が何一つ示されていない。
 列車が「ご利用状況により」廃止されるのならば、運行経費はかかるし運賃収入が少ないのだから話は分かる。しかし、切符の場合は事情が異なり、売れないから経費ばかりかかるということにはならない。昔と違って、あらかじめ印刷しておく必要はないのだから。むしろ、廃止によるコンピューター・プログラム修正の方に手間がかかる筈である。
 では「ご利用状況により切符を廃止する」とはどういう意味なのか?
 筆者の周囲には「周遊きっぷになってからは使ったことがない」という人が多いのだけれど、これは概ね、不便になったからというよりも旅行機会が減ったからで、ワイド・ミニ周遊券なら利用したということではない模様。なにしろ、筆者自身を含めて「ワイド周遊券」がなかったら学生生活が一変したであろう人間が多いもので。
 ゾーンの廃止が最も多いのはJR東日本、ついでJR東海、JR西日本と本州3社が揃い、JR北海道は「釧網ゾーン」のみ廃止、四国と九州は変化がない。このうち「釧網ゾーン」については、道外から利用した場合「札幌・道東ゾーン」の方が結局は割安になってしまい(これは筆者自身が過去に比較検討した)、道内利用者は自社内の企画乗車券でより柔軟に対応できるということなのだろう。
 合理的な廃止理由が見つかるのはこの「釧網ゾーン」だけである。
 極端なのがJR東日本で、東北地方がほとんど壊滅状態になってしまった。三陸方面を旅しようとしても普通乗車券しかない訳で、数十キロ単位の移動を繰り返すととんでもない値段になる。
 9月末、日程・費用面とも少々無理をして「盛岡・陸中海岸ゾーン」の使い納めをしてきたが、ゾーン内の行程は以下のごとくである。
 1日目:盛岡→(バス)→久慈→鮫→本八戸。2日目(雨天のため乗るだけ):本八戸→久慈→宮古→遠野→宮古。3日目:宮古→腹帯→(この間別払いのバス)→宮古→盛岡→好摩→盛岡→新花巻→岩根橋→宮守→盛岡。
 ちなみに観光は一切ナシ(笑)。鮫近くの「観光地」蕪島には行ったけれど、鉄道写真が目的。2日目は好天なら本八戸→八戸→盛岡→(バス)→岩手落合(←この間約2キロ・浅内〜二升石で撮影も可→)浅内→茂市→宮古の予定だった。
 これを普通乗車券で買うとなると16000円にもなってしまう(ゾーン券は6180円)。さらにゾーンまでの往復も割引がないとなれば、差額は15000円近くになろう。今後はそれだけ払えと言われても、筆者の経済状態及び旅行頻度(!)ではとても無理。
 もうひとつの問題は、例えば2日目の行程変更の際など、乗車券の額がどれだけ変わるのか、現地でいちいち計算してみなければならないことである。雨なら雨でよし、じゃあ明日はどうしようかと、宿泊先で時刻表をめくるのはなかなか楽しいものだが、運賃計算もとなると甚だ面倒臭い。
 「周遊券」時代は、帰りの経路さえ未定のまま出発したこともある。そうした「気ままな旅」は困難になる一方で、これから先、自分自身の旅の在り方がどうなっていくのか見当がつかない。
(画像はもう買えない「ゾーン券」。下は11月初めの連休用で、ゆき券を実際に乗る日の2日前から有効にして発売最終日に購入)
 新花巻から釜石線列車に乗ろうとしたときのこと、ホームにいた老夫婦は、入ってきた2両編成の軽気動車(キハ100)を見て、
「おや? 案外と混んでるんだな」
 と言った。実際は「混んで」なんかいない。座席数が少な過ぎるだけである。
 JR西日本の「周遊きっぷ」では、往復に中国地方縦断のローカル線があえて使いにくいよう出入口駅が設定されている。JR東日本のゾーン削減にしても、要するに、
「季節波動が大きくなって厄介なだけだから、旅行にはローカル線を使って貰わなくてよろしい。旅行者が満足するような車両はもう走っていません」
 ということのようだ。
 車両の知識・情報を持たない「一般旅行者」にはむしろ親切な対応なのかもしれない。

後記。ゾーンの先細りが続いた挙句、2013年春に「周遊きっぷ」は消滅した。

 

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