ポイントカード

 昨今、ポイントカードが大流行である。同じ金額でモノを買うのなら、ポイントを溜めて特典のあった方が得……そんな消費者心理を巧みに突いた手法である。もっとも、また来るだろうと作って貰ったまま忘れてしまい、財布の奥から二つに折れ曲がった期限切れのカードが出てくることもあって、実際にどれほどの効果があるのかは分からない。
 とりあえず、某CD店のものと某ホテル・チェーンのもの、この2枚については何度も更新を重ねている。鉄道撮影に出掛けると、どうしても夜遅く到着したり朝早く出発したりしなければならず、宿泊先はビジネス・ホテルとならざるを得ない。あいにく、筆者は慢性疾患を抱え、楽な仕事とはいえ会社勤めをしながら認められもしない小説を書く不規則な生活が祟って2000年に体調を崩してからは、安宿を敬遠するようになった。それで、過去の経験から「ここなら価格も手頃で質的にも安心」というホテル・チェーンを定宿とするようになっている。むろん例外はあるものの、主として宿泊地を基準に行程を立てるのである。ひどいときには3泊すべてが同一チェーンで、内装がみな同じだったりする。無味乾燥だと自分でも思うけれど、鉄道撮影行は適度の運動を伴う最高のストレス解消法なのでやめられない。
 そんなある日、チェック・インのときにポイントカードを差し出したところ、
「ポイントが満点になりましたのでキャッシュバックをさせていただきます」
 とのことで、ありがたく宿泊費(前払)に充当して差額を財布に収めた。そのときから、
 −あれれ? いつの間にそれほどポイントが溜まったんだろ?
 と内心では首を傾げたのだが、慣れっこになって毎回ポイントを確認することもなくなっていたから、深く考えずにポイントの明細表を宿泊カードとともに胸ポケットに入れ、部屋に入ると机の上に置いた。明細表には電話番号など個人情報が入っており、迂闊に捨てられないので、たいていポイントカードのケースに押し込んで持ち帰るのだけれど、後でいいやと机の上に放ったらかしておいたのである。
 シャワーを浴びて浴室から出てきたとき、何の気なしに明細表に目を止めた。
 すると……、なんと「今回ご利用額:730,000」となっているではないか。
(本文と直接の関係はないが、「光と陰の鉄道風景」に展示しているこの写真、ホテル客室からガラス越しに撮ったもので、見かけによらないラクチン撮影)
 かつて、あるプロ野球選手が契約更改のときにゼロがひとつ多い金額を誤って提示され、(かなり昔の話で、あわや「一軍半選手」が日本人初の一億円プレーヤーになるところであったとか)当人は「サインして辞めようかと思った」そうだが、金額としてはケタ違いに低いもののゼロが二つ多いとは! これでは、あっと言う間にポイントは満点になってしまうし、更新後も次回の満点が遠くない。
 ウーンと考えこんだが、愛用しているホテル・チェーンでもあり、このまま知らん顔を決め込むのは寝覚めが悪いことこの上ないので、服装を整えフロントへ申告しに行った。
 考えてみると、いつものとおりすぐ明細表をケースに押し込んでおいたなら、気づくのは旅を終えてからである。
 どうにもこうにも複雑な心境であった。

 後記。2010年代に入った辺りから電子マネーの普及で「ポイントカード」なるものは急速に衰退、本文に出てくるホテルのポイントカードも廃止になった。といっても、インターネット上の電子ポイントへ移行しただけなので、「ポイント制度」そのものはますます隆盛のようである。

 

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