撮影禁止?

 新疋田付近の有名撮影地が軒並み立入禁止になったらしい。車両が画面の大半を占める「列車写真」というものをあまり撮らないので、あの辺りの撮影地にはさほど詳しくないのだけれど、いろんな列車が次々に来るところだから、余ったフィムルの消化に「南城踏切」へは何度か行ったことがある。(たとえばこれ
 線路内を歩かないと行けない場所というのも多いそうで、南城踏切にしても遮断機(←後記。これは記憶違いで正しくは"踏切柵")の内側に入らないと撮れない。もっとも、線路と遮断機踏切柵の間隔がベラボウに広いので、よほど多人数が押しかけない限りそう危険でもない筈なのだが、何か特殊な列車が通る日、ダイヤ改正で特定の列車が消える直前などは相当の混雑になるようなので −筆者はたいてい列車内から「なんやなんや、何が来るんや今日は」と驚くだけのことだが− まあ規制も仕方がないのだろう。
 目下のところ、ホーム上からの撮影は可、ホーム端から下へ降りるのや踏切遮断機内への立入りは不可ということらしい。これは新疋田に限らない一般原則のようでもある。実はこれ、かなり変なハナシで、「列車写真」の構図としては個人的に新疋田付近よりも気に入っている南今庄(上りホームの両端がよろしい)など、ホームの幅が狭いから線路との距離は南城踏切よりずっと近いのである。撮影可能な人数も南今庄ホームだと二人が限界だろう。新疋田が駄目になったから南今庄へ行こう、なんていうヤツが次々現れて新たに問題とならねばよいがと思う。
 今後、立入禁止場所での撮影が頻発する場合は新疋田駅全体が撮影禁止になる、などというウワサがあるらしいが、無人駅のホーム上で「禁止」といって、どうやって取り締まるつもりなのかしらん。
 もし本当に禁止になったら、ハダカのカメラを肩に、三脚を片手に、ホームに立ってやろうかと思う。カメラには風景写真しか写っていないフィルムを使いかけにしておく。特急列車の通過中、これみよがしにカメラをいじくるとしようか。お節介な運転士が列車無線で指令に報告し、巡り巡って普通列車の車掌に連絡が伝わる。
 入線してきた普通列車に乗ってしばらくすると、車掌がやってくるだろう。
「あんた、新疋田で写真を撮っていただろう」
「いいえ」
「そんな筈はない、特急列車の運転士から報告が来ている」
「カメラを持ってホームにはいましたよ。それがいけないんですか」
「……」
「フィルムはカメラに入ったままだから、このままアンタに預けようじゃないの。もし新疋田の駅で撮った写真が無かったら、別に名誉棄損で訴えたりはしないけれども、現像代はそっちで出して貰いますよ」
 というのはどうだろう。
 本当に危険な行為があったときには、列車妨害として警察に通報すればよいのであって、特に人の集まる要素のない日までアタマから禁止というのは馬鹿げている。法規制があるのは新幹線の線路だけである筈だ。
 いつの頃からか、日本人は自己責任という概念を忘れてしまった。川に落ちたのは柵がないせいだ、酔っ払いが線路に落ちたのは鉄道会社の安全管理が不備なせいだ……。
 お蔭で、日本中の景勝地が厳重に柵で覆われてしまい、なんと風情のないこと!
 フェンスを乗り越えて線路内に入り、電車にハネられたようなのは(幼児は別としても)終電まで放っておけばよく、そうすれば列車の遅延も少なくなるし、救助……じゃなくて死体処理の警察・消防署員だって安全だ。終電後なら線路閉鎖をかけても影響は少なかろう(貨物や夜行のない線区なら影響はゼロに近い)。
 それから、線路内歩行が一概に危険だとはいえない。ローカル線の途中駅に降りてみるがいい、地元の人がしばしば近道として線路を歩いている。大型トラックのドカドカ通る、歩道のない道路よりはずっと安全だ。(写真は五能線艫作駅付近)
 地元のバアサマが線路を歩いている、まあ黙認しておこう。鉄道マニアがカメラ片手に線路を歩いている、それは怪しからん!?
 ローカル線の多くには駅間に信号回路がなく、いかなる臨時便が設定されようと絶対に列車の来ない時間というのがある。それを理解しているのは地元のバアサマか、鉄道マニアか、いったいどっちだ? 実際、ダイヤを片手に撮影中、そろそろ列車が通るぞという時刻に、人が線路を歩いているのをよく見かける。
 −おいおい婆さん、あと数分で列車が来るぜ。
 案の定、やってきた列車は遠くから警笛を鳴らし、婆さんはびっくらして足場の悪そうな築堤を下る。危ないねえ。
 近ごろ、ローカル線の小駅でも「線路内立入禁止」の札がニョキニョキ立っているのを見かけるが、まったく何もない駅も多い。どういう基準なのか、管轄支社でも逐一調べれば傾向が掴めるのかもしれないが、そこまでするほどヒマではない。
 大勢が一度に押しかけないかぎり、閑散線区で線路を歩いたところで誰も迷惑しないし、新疋田でいえば南城踏切で上り列車を撮るのには何の危険もない。結局のところ、廃止になると聞くとワッと押しかけるマニアの体質(自分で何かを見つけるのが下手なのは日本人全体の特性でもあるけれど)に問題があるのだが……

後記。本線沿いの柵では飽き足らず、今度は「ホーム柵」ときた。各先進国で整備されているのに日本では……というのならまだ理解できるけれど、どういうのかね、この変な国民性は。

 

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