ときには妄想を

 2004年3月改正でJR九州からも定期の急行列車が消滅。気が付いたらJRグループの急行列車自体が両手の指で数えられるほどになり、昼間の列車ともなると片手で足りるようになってしまった。
 特急という種別は本来「特別急行」の略である。確かに一般論としては、語源と無関係な用法で使われる言葉が少なくないとはいえ、年配の車掌が車内放送で「この列車は、特別急行〇〇何号△△行です」とやることも珍しくない。「普通急行」が1本もないのに何が「特別」なのかしらん。
 こんな馬鹿げた状況はそろそろ是正してはどうか?
 国鉄末期、急行の特急格上げは増収策を兼ねており、車両のやりくり(急行型車両を老朽客車の置換に使い、東北・上越新幹線の開業で余剰となった特急型車両を急行の格上げに使うことで、新製車両数を抑えられる)からも、背に腹は変えられないという面があったけれど、今は事情が違う。現に、わざわざ特定料金を設定し、かつての急行より安い場合まであるのだから。
 「普通急行」が消滅寸前の今は、むしろいい機会ではないか。
 もともと料金体系の違う新幹線と、割増料金を取っているJR東日本の一部列車、そして長距離の寝台列車を「特別急行」で残し、後は全部「急行」にして、今も残る普通急行を「準急行」とすれば、言葉の使い方として適切なものとなる。この案だと、北陸本線等では急行が特急を追い抜くことにはなるものの、「特別」なのは設備の方なので問題なかろう。今の特急料金は名前だけ急行料金になる訳だから、新幹線より多少安い金額の新たな割増「特急料金」を設定し(600km以上も区分を新設)、代わりに「寝台料金」を値下げしたい。開放型寝台は今の半額程度が妥当で、現状から一律3,000円引き下げるのがよかろう。ついでに「準急行料金は列車ごとに定める」と規定して、なんとかライナーと称して料金を徴収している列車も「準急」に含めてしまうとなおよい。JR九州の「かいおう」や「はやとの風」も準急が相応である。
 妄想ついでに列車名も全面的に見直そう。
 実際に車両性能の異なる列車が共存する「とかち」と「あずさ」を例外としても、スーパーなどという無意味な接頭語(?)は削除する。常磐線は「ひたち」と「ときわ」でよい(後記。2015年に実現。筆者の生きているうちに「ひたち」で仙台へ行ける日がくることを願うのみ)。最近、JR東日本が一部列車名の整理(新特急とL特急の削除)を行ったものの、その対象は国鉄時代のものに限られており、スーパービューやらフレッシュやらを取り去る意志はないらしい。言葉の醜悪さではどっちもどっちだ。
 JR西日本管内では、サンダーバードを「雷鳥」とし、国鉄型で残る列車は「くずりゅう」辺りにするのも一案だが、登場時から使用車両の形式が変わっていない「雷鳥」の名を新型車両に付すと利用者が戸惑うだろうから、富山行サンダーバードを「つるぎ」か「たてやま」、和倉温泉行を「ゆのはな」にしたい。名称を分けた場合、大阪・福井間といった指定券の発行で空席照会が繁雑になるかもしれないけれど、端末の改良で対応出来るだろう。「オーシャンアロー」は「きのくに」。電化前の急行では「紀州」の方が停車駅も少なく格が上だったとはいえ、線内の最優等列車にはふさわしくない。
 かの宮脇俊三氏も『オレの頭その他に毛は生えているが、ヘアなんぞ一本もないぞ』という名文句を残し、『片カナの列車名を本来の美しい日本語に戻したくて、たとえば「トワイライトエクスプレス」を「たそがれ急行」とするなどの改称案一覧を作ってみたいと思っている』と述べておられるが、それを発表なさらぬまま他界してしまった。
 一部示された宮脇案では「タンゴエクスプローラー」が「丹後探検」となっている。後に「丹後発見」が登場したので、直訳案では北近畿丹後鉄道(後記。これも2015年に半ば実現! だが駅名は変になった)線内で紛らわしくて仕方がない。あの辺りでは国鉄時代の急行列車名が次々に電車特急として復活しており、空いている手頃な列車名が見当たらないから新作を考える必要があろう。安直なカタカナと違い感性と創造力が要求される。その意味でも宮脇氏の試案をもっと拝見したかった。
 ただし、失礼ながら「たそがれ急行」はいただけない。黄昏という言葉はしばしば衰退・没落の象徴として暗喩的に使われるからだ。筆者は学生時代に「おしま」「とうや」「北海」「しらゆき」等、色々と「まともな」列車名案を考えたのであるが、鉄道研究会の中でも誰ひとり賛同してくれなかったほどから非現実的であろう。最新案としては「夕映」がいいのではないかと思っている(ひらがなだと蝿みたいで字面が悪い)。
 遠からず北陸新幹線という名の破壊神が暴れまわることになろうが、東北の前例から見れば、新製車による寝台特急「夕映」を夢想してもよかろう(後記。この希望は打ち砕かれた……)
 不思議なのは、新幹線にカタカナ列車名が現れないこと。「500系のぞみ」が登場したとき、JR西日本はカタカナを付そうとして乗入先のJR東海に拒否されたそうな。かつて、JR東海は車両が置き換わっても列車名は「ひだ」であり「しなの」のままで、見識のある会社だと感心していたら、あるとき突然、馬鹿のひとつ覚えで「ワイドビュー」が被せられ、JR他社と変わらなくなった。
 個人的には、どうせ無機的な新幹線の列車名なんぞ何でもよい。むしろ、新幹線こそ率先して、JR西日本の"望み"どおりにカタカナをどんどん取り入れてはどうか。まず「ストリームライン・ホープ」(JR西日本の試案に「のぞみストリームライン」というのが実際にあった由)、700系のぞみは東海主体だから「アンビシャス・ホープ」(今となっては意味不明かもしれないが、かつてJR東海が新幹線先頭車の脇腹に「アンビシャス・ジャパン」と横文字で大書きしていたのである)、停車駅の多いのが「シャイニング・サン」、「レールスター」はそのまま列車名にして、全駅に停まるのが「フレンドリー・エコー」。
 九州新幹線は「チェリーブロッサム・アイランド」!!
 ……阿呆らしくなったからもうやめる。だが現実は万事こんな調子だ。

Kai-chanの妄想時刻表(笑)
種別 列車名 時 刻 行 先
急行 つるぎ 19号 11:42 富  山
特急 夕  映 12:00 札  幌
急行 つるぎ・ゆのはな 21号 12:42 富山・和倉温泉
急行 雷 鳥 23号 13:12 金  沢

 後記。2009年3月、とうとうJR全線から昼間の定期急行列車が消滅した。 2011年には山陰方面からカタカナ愛称が消滅してメデタシメデタシ。南紀方面も正統派の「くろしお」に統一されたことだし、「サンダーバード」→「雷鳥」の変更もあながち妄想とは言えなくなったのではないか……と期待していたら、税金無駄遣いの極致たる新幹線の建設計画が大阪まで達し、列車系統の消滅が見えてきた(怒)。

 

HOME    最新号へ

バックナンバー目録へ戻る際はウィンドウを閉じて下さい