旧国鉄能登線、のと鉄道能登線の廃止がいつの間にか正式に決まったらしい。とうとう来たな、という印象である。
ちょっと屁理屈っぽくなるのだけれど、国鉄再建法によって転換対象となり、第三セクター会社を設立して鉄道存続の道を選択したローカル線としては、初めての廃線となる。既に廃止となった大畑線(下北交通へ移管)と黒石線(弘南鉄道へ移管)は「第三セクター」ではなかったし、輪島へ延びていたのと鉄道の七尾線はそもそも「国鉄再建法」とは無関係である。
複雑な定義を挙げてまで「初めての例」を強調したのには一応の理由がある。完全な民間会社であれば「公共の福祉」という呪術的(?)な語句に振り回されないし、国鉄再建法による転換路線には「転換交付金」や期間限定ながら赤字補填というバック・アップが付いていた。条件が他と異なる訳だ。その相対的好条件の中でも、ローカル線の経営は立ちゆかなくなったらしい。お役所の大好きな「前例」が出来たことで、第三セクター鉄道の廃止が急速に進むことになるかもしれない。池北線(北海道ちほく高原鉄道)も余命は長くないと言われている。
のと鉄道に乗ったのは一度だけである。
"転換"組の第三セクター鉄道を見渡したとき、移動手段としての利便性が高い("目的地への行き帰り"に自然と通る)伊勢鉄道は別格として、それに匹敵するほど乗車回数が多いのは三陸鉄道北リアス線になると思う。これは、東北本線の普通列車が通勤電車になってしまい、無理矢理三陸回りにしたケースがあったのと、両端の八戸線と山田線に惹かれた結果だが、現地への周遊きっぷがなくなり、遠出をする回数は減る一方なので、今後は微妙である。次いで北近畿タンゴ鉄道宮津線。日帰りには遠く泊まりがけで行くには近いという中途半端な立地の割にはよく訪ねている。他に、「また行きたいのだが、いかんせん遠くて……」という例として、高千穂鉄道と由利高原鉄道を挙げておく。
一方、のと鉄道は沿線に豊富な観光資源を抱えているにも拘わらず、筆者から見ても魅力に乏しい。理由は簡単。乗換が不便だし車両も営業キロが長い割に座席数が少なくて、きちんと座ろうとすれば執念を要する。筆者にしてしかり、一般利用客はそんな執念を絶対に出してはくれない。初めは混んでいても短区間利用が多くてすぐに空きますよ、というのは経営側の発想で、具体例を挙げれば、駅弁やビールなんぞ買い込んで、ロングシートにしか座れずがっかりするのは始発駅のこと。ビールの缶が暖まった頃に空いたからといって印象は決して好転するまい。筆者が鉄道愛好家でなければきっとこう思う。
『なんやねん、これ。次に来るときは観光バスかクルマにしよう』
能登線は第三セクター転換で一気に利便性が損なわれた典型と思われる。それまでは金沢始発の急行がたくさんあったのに、転換後は1往復。それも、珠洲を早朝に出発し、金沢から夕刻に引き返す用務型ダイヤで、他所者には使いようがなかった。
せめて、転換から数年遅れで新設された急行「のと恋路号」が金沢始発で運転されていたら、もう少し観光客の呼び込みも期待できたのではないか。高千穂鉄道では指定席を連結したりして「努力」の跡(成功しているかどうかはともかく)が窺える。のと鉄道にはそれが感じられなかった。
長いこと、バスより鉄道が好きだった。これも理由は簡単で、筆者には鉄道の方が快適だったから。昔はなぜか評判が悪かったけれど、国鉄急行型の4人掛け向かい合わせ座席が今でも一番好きである。しかし、現在では「これじゃあバスの方が快適だ」と思う車両が多い。第三セクター鉄道も多くがこれに該当する(コスト削減のための新たな「第三セクター向け標準車体」が比較的よく出来ているので、起点に行き来するJR列車の方が貧相という例も増えつつあるが)。
沿線人口が十分にあり、本数さえ増やせば乗客増が期待できた線区(九州の甘木鉄道が数少ない例として挙げられる)ならともかく、観光利用を期待しようとすれば、それに見合う車両水準が不可欠である。特別な車両編成を1本用意するのではなく、「汎用車両」の水準が高ければ、旅行会社と連携して団体列車を設定するのも容易だろう。
現在、車両水準で合格点を与えられるほとんど唯一の例は北近畿タンゴ鉄道。大都市からの直通列車も多く、観光利用の「待受」態勢は万全。経営状態はどうなのかは資料がなくて分からないが、頑張ってほしいと思う。
もし、JR能登線時代の急行「能登路」と同水準の本数で、「タンゴディスカバリー」並の車両が金沢から直通し、普通列車も全車両が全席転換クロスシートを装備していたら、どうなっただろう? 輪島への路線が先行廃止を余儀なくされただろうか。蛸島はともかく、珠洲までの区間がやはり2005年までしか続かなかっただろうか。
答える術のない疑問ではあるし、津幡〜和倉温泉間の線路容量という難関もあっただろうけれど……。(写真はおそらく珠洲にて 1993. 2)
先行きが絶望視されているもう一つの第三セクター路線、北海道ちほく高原鉄道については、開業時の身勝手な感想を紹介しておくに止めよう。
『"長大4線"の中で一番つまらない線区だけ鉄道存続か。標津線か名寄本線だったらなあ』
(後記。本文中にチョロッとだけ出てくる高千穂鉄道が災害から立ち直れず、旧池北線より先に消えてしまった。残念といえば残念だが、あまり感慨のようなものはない。一般車両の水準は低いし、何より"根元"のJR九州が嫌いになる一方だし……)
バックナンバー目録へ戻る際はウィンドウを閉じて下さい