厄介な鉄道営業規則

 青函トンネルを通る快速「海峡」が健在だった頃、使われている客車に2つの種類があって、何本かは夜行の急行「はまなす」から寝台車を外した編成で運転されていた。この編成だと、指定席にはグリーン車用の座席につけ変えた車両が充当されるのだが、かつて2度も指定席券を準備したのに、結局1度も乗れなかった。
 なぜかというと、2度とも奥羽本線の列車が遅れ、お目当ての「海峡」は先に行ってしまったからである。
 最初は、当時青森行だった「いなほ1号」が20分ほど遅れた。先行の貨物列車が遅れているため、としか車内放送では言わず、原因は不明。青森駅の窓口で「海峡」の指定席券を示し、「次の快速を待つと随分間が開くが、こんどの『はつかり』に乗るには特急料金を払わなければならないのか」と尋ねると、さすがにそのまま自由席への乗車を認めてくれた。列車番号がごちゃごちゃ記された後に「不接のため便宜乗車願います 青森駅(印)」と書かれた紙切れを、指定席券にホッチキス止めしてくれた記憶がある。「海峡」が自由席利用の予定なら不可だったかもしれない。
 2度目は五所川原から青森に向かおうとして、快速「深浦」が遅れた。このときは五所川原駅にいる時点で接続は無理と判断されたので、窓口に掛け合うと、まだ問題の「海峡」が発車していない以上、乗変扱いになってしまい特急料金が要るという。もちろん指定席券を持ったまま青森に向かい、今度は普通列車同士の接続だから無理かな、と危惧しながら窓口へ行ったところ、もめることもなく特急に乗せてくれた。
 運賃表距離区分の悪戯で「乗り越した方が安くなる」ケースがあるらしいが、ダイヤの乱れによる救済措置とはいえ「乗り遅れた方が安くなる」というのも妙である。
 駅員とやりあって譲歩を引き出したのが今年(2005年)2月の磐越西線。
 JR東日本が「周遊きっぷ」を次々と廃止してしまったお蔭で、大阪から只見線を撮影に行こうとすると、往復のルートを変えて「片道一周切符」を作るのが最善の策になり、今回は東海道→東北→磐越西→信越→北陸という経路で、大阪市内→京都市内と京都→大阪の連続乗車券を(実は初めて)作って貰った。有効期間が手書きで「青春18きっぷ」等と同じサイズの自動改札非対応券が出てきたのには驚いた。
 さて、出発前は新潟県付近が十数年ぶりとかいう豪雪、気象情報によれば「大雪の峠は越えた」ものの、撮影予定二日間の予報は雪、雪……。
 しかし、筆者は晴男である。土曜日は駅から出るのが億劫になる降り方だったけれど、翌日曜日の会津盆地には太陽が顔を出し、快晴とまではいかないが雪を降らせそうな雲は見当たらない。
 とはいうものの、大雪続きで只見線は会津川口以西が不通。目当てだった会津川口〜只見間の臨時普通列車は、2月5日と6日の運転日については幻となってしまった。それでも、路線バスを駆使して効率よく見事な雪景色の撮影を楽しみ、さあ夕方の磐越西線列車で新津へ出ようと思いきや、会津若松駅の案内板は「16:22 普通 野沢」と表示しているではないか。
 よく見ると、改札の前に手書きの掲示板があり、「只見線の会津川口〜小出と磐越西線の野沢〜津川は雪のため運転見合わせ」とある。(写真は会津坂下にあった掲示で、本文のものとは異なります)
 実はこのとき「やった!」と内心で喝采してしまった。
 というのは、普通乗車券を使用中に不通区間が発生した場合、旅行を中止して途中下車せずに出発駅に引き返すという条件で、運賃は全額払い戻し。しかも帰りの運賃までタダである。この時刻なら新幹線乗継で新大阪までその日のうちに帰れる。
 みどりの窓口に掛け合うと、係員は筆者の切符を手に奥へ引っこみ、戻ってきていわく、
「野沢〜津川間は代行バスが出ていますので、次の列車に乗って下さい。野沢からすぐにバスが接続します」
 ウーム残念! と引き下がったが、未練がましく駅に備え付けの時刻表巻末を調べてみたところ、無賃送還の項には『列車の運転ができないとき』としか書いていない。法律の条文的な解釈をすれば、その上の項にある規定から「代行バスは列車とみなす」ということになりそうだが、これは鉄道営業規則本体ではなく時刻表の説明文、日本語としては「代行バスは列車である」というのは明らかに変である。
 今度は改札兼清算窓口に行ってみた。どうしても代行バスに乗らなくてはいけないのか、不通区間の扱いには出来ないか、という訊き方をしてみても、答えはみどりの窓口と同じ。
「バスがすぐに接続しますから」
「それで、新津に着くのはどれくらい定時より遅くなりますか」
 係員は書類を指で辿っていたが、その表情が突然曇った。
「バスの津川着が18時35分、列車が20時11分発ですね……」
 冗談じゃない、津川で1時間半も待てというのか? バスがすぐ接続しますからと言っておいて、その先はちっとも「すぐ」じゃない、可怪しいじゃないか。厭なら平常時の規定通り、余計に金を払って乗車券を変更しろというのかよ。
 こんなものを会津若松発新津行列車の「代行バス」と称するのは認められない、と頑張ったところ、相手はしきりと電話でどこかに問い合わせ、交渉開始から20分の後、『無賃送還は不可だが、通常の途中払い戻しではなく異常時の払い戻し、つまり会津若松発京都行運賃相当額の払戻しなら適用しよう』という妥協案が出てきたので、金銭的に損をせず山中の駅で1時間半待ちを強いられることもないのなら良し、と受諾した。
 ゴネてみるものである。
 後でJTB版の時刻表を調べると「接続の乱れ」という頃があり『接続駅で1時間以上接続できないため』旅行を中止する際にも無賃送還を適用、ただし不通の場合と異なり、途中下車をしている場合は『券面の着駅とその途中下車駅間の運賃が払い戻しに』なるとあった。津川での1時間半待ちを「1本の列車が長時間停車するものとみなす」のはいくらなんでも非常識だから、本来なら直通のところ「接続1時間以上」との解釈に至ったものらしい。
 それでも癪に障ったから、なるたけJR東日本を使わず会津鉄道〜野岩鉄道経由で帰途に着いた。予約してあった新潟のホテルへは会津若松駅ホームからキャンセルの電話をかけ、会津田島での5分接続を利して宇都宮(栃木市が最も好都合なのだが、手頃なホテルが手持ちのガイドブックに載ってなかった)のホテルを予約。好きになれない携帯電話の有難さを痛感したことだった。
(後記。2006年4月に連続乗車券を購入したところ、自動改札対応に変わっていた。どの程度発売実績のあるものなのか知らないけれど)

 

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