鉄道撮影のため只見線・滝谷駅に降りたとき、駅前に元は土産物屋や食堂だったと思われる建物が並んでいるのに意外の感を抱いたことがある。
(地元の方には失礼ながら)なんでこんなところに? と訝って地形図をよく見ると、川に沿って谷の奥へと入った辺りに温泉の記号があった。
かつては「汽車からバスへ」乗り換える人々で賑わっていたに違いない。
現在もバスは走っているが(後記。いつ間にやら廃止されたようだ)、駅前には入らないし、撮影の帰りに乗ったところ観光客は皆無であった。
いつ頃から、このような「旅の変質」が始まったのだろう?
国鉄末期の時刻表を本棚から引っ張り出し、買った当時はほとんど見ることのなかった路線バスの時刻を調べてみると、観光地への便数が現在とは比較にならぬほど多い。
どうせ少しずつマイカーへ転移したのだろうと推測していたけれど、最近になって、どうもそればかりではないらしいと考えるようになった。半世紀前なら自分で時刻表を調べて行程を組んでいたであろう「旅人」が、相当な割合で旅行社のツアーへと流れているようなのだ。
1990年代までは、そんな連中は俺と関係ねえや、とばかり無視していれば済んだのに、このところ、この「ツアー客」が大きな障害となって旅心に水を差してくれる。観光バスで駅へ乗り付け、定期列車の自由席にドッと乗ってくる集団が増える一方なのだ。
釧網本線のオホーツク海に沿う区間や山陰本線の餘部前後でぶつかったときには、輸送力がギリギリにまで縮小されているものだから通路まで満杯になった。
あるとき、新聞広告でこの種のツアーが只見線にも組まれていることを知り、それ以来、一時期頻繁に通っていた只見線に乗る気がしなくなっている(これを書いている日の夕刊には小海線を利用するツアーの広告が出ていた)。
昨年、通勤電車が大半を占める呉線に乗って瀬戸内海を眺めてみたくなり、観光列車「瀬戸内マリンビュー」の自由席に座るべく広島駅ホームに並んでいたら、旅行社のツアー客とおぼしき集団が現れた。初め「うへえ、指定席は団体で満席か」と他人事のように眺めていたところ、何と添乗員に誘導されてきたのは自由席乗車位置である。一度は車内に入ったものの、あまりの混み方に馬鹿らしくなって乗るのを止めてしまった(山陰へ撮影に行った帰りのことだから、徒労という訳でもないが)。
目先の利益ばかり追求し、こんなことをやっていていいのだろうか。
一定数以上の団体客は、「指定席または貸切列車」以外の利用を禁ずるくらいのことをしなければ、沿線住民を含めた一般利用客はますます鉄道から離れていくだろう。
同じ理由で、筆者は敢えて「青春18きっぷ」の廃止を提唱する。
あれは国鉄末期、輸送力を持て余していた普通列車の活性化を目的に設定された企画乗車券で、今では沿線利用客に迷惑でしかない。代わりに、学割限定で「ワイド周遊券」を復活させるとよい。現在、比較的輸送力に余裕があるのは普通列車よりも在来線特急である。若者の鉄道離れを食い止めるにはこの方が余程有効だと思う。
現に、かつてワイド周遊券愛用の若者だった筆者は、未だに「鉄道離れ」が出来ずにいる……。
目先の利益といえば、車両の構造にしても然りである。
画像はつい最近PHSのモバイルカメラ(一眼レフのカメラを持たず「乗りテツ」に行ったときにはやっぱり便利)で撮ってきたJR東日本のポスターだが、これは許しがたい詐欺的広告である。卑怯と形容してもよい。
今、JR東日本にこんなことの出来る列車がいったい何本残っているというのか?
国鉄急行型の3両編成を近郊型2両編成に置き換えるような「詰め込み」を平気でやっておいて、イメージ広告だけ「国鉄時代のまま」とは!
最初は急行型気動車と思っていたが、画像をパソコンに取り込んでからよく見たら窓が2段式で、しかも車端までクロスシートだから、何と12系客車らしい。今や「SL列車専用」編成である。この画像では分かりにくいが、ポスター内の「端役」はどう見てもSL列車の乗客ではない。景品表示法違反で告発してやりたいくらいだ(画像は著作権法上灰色領域かもしれないけれど)。
一方、JR西日本が最近新製した一般型気動車を見ると、やや「反省」の気配は窺える。走らせる側のことしか考えていない車両を投入して「経費が節減出来た」と喜んでいたのも束の間、その後の乗客離れが予想以上に深刻だったものと思われる(追跡調査をすれば、車両置換との因果関係もデータが得られるだろうし)。
事実、筆者は姫新線の軽気動車でスシ詰にされたことがあり、以来見切りをつけて佐用以西には乗らなくなったのだが、数年前に姫路→佐用→上郡→岡山という妙なルートを利用したとき、佐用で接続する津山行は乗客僅か3人で発車して行った。
「見切りをつけた」のは、やはり筆者だけではなかったのだ。
通勤電車と変わらないような混雑に辟易して、個々の旅行者がなるたけ早く「ローカル列車利用のツアー旅行」に見切りを付けることを、筆者は望んでいる。さもないとすべてが手遅れになってしまう。
現状では、大都市圏以外の鉄道に未来はない。
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