*Kai-chanの鉄道旅情写真館・異次元のページ*

心に残るこの1枚・第16回

ユージン・オーマンディ指揮
フィラデルフィア管弦楽団

管弦楽名曲集いろいろ

(RCA/ソニークラシカルほか)

 

 今回は話の都合上、「この1枚」がいろいろ出て来ます(苦笑)。

 CDライブラリの中に「BGM専用ディスク」という一群がある。
 小説書きをしていた頃、日によっては無音……厳密には現実音だけの環境より集中出来るから、というので、意識があまりスピーカーの方に向かない、具体的には通俗的で軽めの曲ばかり入ったCDを数年に1回くらいの割で買っていた。
 画像のディスクは結果的にその「最後の1枚」となったもの(書かなくなったから)。
 頭の中が近代・現代曲モードとなり、何週間も20世紀以降の作品ばかり聴いていたら、しばしばその反動のように思い切り通俗的な「名曲」が聴きたくなり、旧「BGM専用ディスク」の出番が来る。
 画像を載せたディスク(Spectacular Overtures)の収録曲は以下の通り。
  ●スッペ:歌劇「詩人と農夫」序曲
  ●ロッシーニ:歌劇「ウィリアム・テル」序曲
  ●エロール:歌劇「ザンパ」序曲
  ●オッフェンバック:歌劇「天国と地獄」序曲
  ●スッペ:歌劇「軽騎兵」序曲
  ●メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲
  ●J.シュトラウスII:喜歌劇「こうもり」序曲
 購入時、3曲目の「ザンパ」序曲だけが未知の音楽だったから、プレーヤーに表示されるトラック番号を確かめるまでもなく「あ、これがそうだ」というのが分かった。
 ところが、数分の後に、曲想が変わったと思ったら突然「非常によく知っている音楽」になったもので、ビックリしてワープロを打つ手が止まった。
 記憶を辿ってみたら、おそらくFMの音楽番組『朝の名曲』で1980年代にオープニング・テーマとして使われていた箇所だ。確か進行役は音楽評論家の吉田秀和。この人は「カセットテープへの録音がやりにくい進行役」として印象に残っている。定型文的な「それではお聴き頂きましょう、誰それ作曲の……」という前置きをしてくれないので、録音を始めたら「その一方で……」と話が続いたり、予期せず曲が始まって録音し損ねたり。このCDを買った頃にはカセットテープも吉田秀和も過去帳入りしていたので、次の曲調に移るまでの数分間、懐かしさいっぱいで「聴き入って」しまった(ちょこっと調べたら、『朝の名曲』は吉田秀和じゃないかも。35年前の記憶だから)。
 音楽番組のテーマ曲ならまだしも芸術的感慨と言えるけれど、小学校の運動会BGM定番「天国と地獄」序曲をまともなオーディオのちゃんとしたオーケストラ・サウンドで聴いていると変に恥ずかしくなってくる。これもRCAから出ていた『華麗なるオーケストラ名曲集/The Fantastigue Philadelphians』に入っている『カバレフスキー:組曲「道化師」~ギャロップ』などなおさらだ。
 FMの「ブラボー・オーケストラ」という番組(もしかしたら前身の"FMシンフォニーコンサート")が日曜の午後だった頃(それは、NHKが現在のように左傾化していなかった頃でもある)、進行役の吉松隆がなかなかの名言を残している。
 -恥ずかしいことというのは、気持ちのいいことである。
 分かる! でも、やっぱりオンキヨー:D-TK10の前に座って『道化師~ギャロップ』を聴くのは赤面ものとしかいいようがない。
 ただ、小学生当時の記憶と結びついた音楽であっても、"下校時刻"に流れていたサン・サーンスの(「動物の謝肉祭」~)「白鳥」とか、運動会の騎馬戦BGMだったワグナーの超有名曲「ヴァルキューレの騎行」(「ニーベルングの指輪」~といえばこの曲)などは、今も気恥ずかしさを伴うことなく聴ける。
 これはなぜだろう。
 もともと作品の持っている「安っぽさ」が、はからずも運動会BGM聴取体験というフィルターを通すことで強められた……というのは、オッフェンバックやカバレフスキーに対して失礼だろうか?
 知らない曲なのに……えっ? という体験といえば、バレエ曲集(ソニークラシカル)に入っていたドリーブの「シルヴィア」組曲。
 曲の後半で、突然1980年代にアメリカで人気を博したテレビドラマ『ナイトライダー』が始まって思い切り吹き出した(チャッチャカチャカチャカ……じゃなくて、タッタカター・タッタカター・タッタカタッタッター……と書いてどの程度の読み手が"両者"を脳裏に再現できるものなのか見当がつかない)。
 旋律線がまったく同じという訳ではないものの、節奏が完全に一致しているのは、果たして偶然なのだろうか?
 邦画・洋画を問わずドラマによっては「制作者に好きなのがいるんだろうなぁ」と分かるくらいマニアックな芸術音楽ネタの回が出てくる一方、ナイトライダーには確かそんな回が一度もなく、主人公の上役である"英国紳士"(どういう訳かオリジナル音声と吹替版で姓が違う)がカー・ステレオで聴いているのは初心者っぽい曲ばかりだったから、偶然の一致と見るべきか。
(ちょっと脱線。何十年か前、外国のテレビ局が作った「キューバ危機」ドキュメンタリーに、BGMが全部ブルックナーというのがあった。しかも、弦楽五重奏曲の緩徐楽章とか「ヘルゴラント」とかが出てくるんだから、もう(←この話を長姉にしたら「それが全部分かるアンタもアンタや」と突っ込まれた)。それから邦画ドラマで『警視庁捜査資料管理室スペシャル(BSフジ)』……この制作スタッフにはまず間違いなく"マニア"がいる! 逆に、知識のない連中が無理して作ったらしいお粗末なのも珍しくないがここでは触れないでおく。)
 最後に、早逝した次姉の受け売りを一つ。逆に「収録曲は全部知っている筈なのに、何か変なのが始まった」という例。
 手元にはMDしかないのでディスク・タイトル不明、あやふやな記憶ながらCBSレーベルだったような気がする。曲目は『フォスター:草競馬』……編曲者が明示されていないものの、冒頭部はまずフォスターが書いたものではないだろう。あの「いかにも正体不明の怪しさ」は聴いて頂かないと分かるまいが、そのお蔭で「気恥ずかしさ」なく聴けるのが、これまた芸術の妙かもしれない。  <2020年11月掲載>

 

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