無駄足のような得したような
2019年10月19日限定 紀勢本線撮影計画
天王寺 9:50→11:45紀伊田辺 特急「くろしお5号」
紀伊田辺12:03→13:47見老津 臨時快速「紀の国トレイナート号」225系4連
被写体1 見老津駅通過推定時刻14:01 下り特急 283系
駅前付近国道路肩から周参見方へカメラを向けて
被写体2 見老津駅通過推定時刻15:19 上り特急 289系
江住方にある漁港防波堤から
見老津16:11→16:22周参見 臨時快速「紀の国トレイナート号」225系4連
周参見16:29→17:37御 坊 特急「くろしお30号」
食事または食料入手
御 坊18:09→19:32天王寺 特急「くろしお32号」
入院・手術からかなり時が過ぎた。気候が良くなったら日帰りでいいから「旅」がしたい。久方ぶりに椿温泉……というより椿漁港と朝来帰(あさらぎ)集落の様子でも見てこようか……そんな思いで10月号の時刻表を買って「読んで」いたら、予期していなかった「非の打ち所がないほど完璧な撮りテツ計画」が完成してしまった。
移動はすべてクロスシート車。駅から撮影地点への移動時間も、ぼんやり海を眺める余裕があり、待ち時間が長過ぎもせず慌ただしくもなく適度である。
まだ「とにかく走行中の列車に向けてシャッターを切ってみる」という"撮りテツ試運転"を4月に行っただけで、そろそろ病後初の"撮りテツ本線運転"をやっておきたかった折りでもあった。
体力的な不安から、夏場「仕事以外は引きこもり」の状態だったため経済的には余裕があり(室内で出来る筋力維持のトレーニングはやっていた。腕立て伏せとか、頸椎に負荷のかからない足上げ腹筋とか)、乗車する特急については、みどりの券売機でグリーン車の「いい席」を早々に抑えた。
拙サイト鉄道旅情写真館の常連さんならば、以上をお読みになっただけで「ああ、予定通りには行かなかったんだろうなぁ」とお気づきになったかもしれない。
成功していれば「作者のひとりごと」ではなく写真主体の特別展示を開設しただろうから……
……いや、それ以前に題名を見れば分かるか(苦笑)。
実は、出発の3日前には「撮影不可能」と判断していた。理由は……雨。
週間予報に19日が現れた日から……雨、前か後ろに動いてくれ、という期待もむなしく雨の予報が前寄りへと「拡大」してしまい、しかもそれだけでは済まずに、18日午後「大雨のため串本-新宮は運転見合わせ」ときた。
中止はもちろん考えた。しかし、前日にグリーン券をキャンセルすると払い戻し手数料を30%も取られる。
もともと臨時快速は紀伊田辺-串本の運転予定だから、運休の可能性はそう高くない、と判断。イベント列車だからあちこちで長時間停車もあり、それを活用する「撮りテツ要素」も残しつつ串本まで行って帰ってくる計画に変更。最悪の場合に備えて前日のうちに串本までの乗車券をあらかじめ買っておいた……というのを読んでスッと意図が理解出来る方は、列車の大幅遅延や運転打切りに遭遇した経験が相当数おありに違いない(幸か不幸か、備えは的中した)。
当日、天王寺駅へ向かうと(出発前はどうしてもバタバタするので、テレビの気象情報を確かめただけで、JR西日本公式サイトなどは調べず)、なんと運転見合わせ区間は周参見-新宮に拡大、新宮行の「くろしお5号」は白浜で運転打切り、との案内放送……。
一旦は出発を中止するつもりで駅出口へ引き返しかけたものの、発車時刻まで10分を切っている。手持ちグリーン券は紀伊田辺まで、保険代わりの串本ゆき乗車券があるとはいえ、乗り遅れで無効という解釈がなされかねない。
迷った挙句、なるようになれ、という気持ちで「くろしお5号」に乗ってしまった。
結果論として、この判断が正しかったか否か。その答えは「微妙」といったところ。
もうすぐ御坊到着というところで、妙な車内放送が流れた。
「間もなく御坊に到着します。なお、到着後、車内点検のためしばらくドアが開きません。御坊でお降りのお客様にはご迷惑をおかけしますが……」
鉄道に詳しければ詳しいほど「何だそれ?」と混乱する筈である。戸閉機の不具合なら開けた状態で修理する、応急修理が不可能な場合は問題の生じたドアを締切状態にして運転を続ける、というのが常識。開かない、のではなく、意図的に「開けない」のは間違いないとして、その理由にまったく見当が付かなかった。
いざ御坊駅に進入すると、ホームには5人ばかり警察官の姿か!
……エーッ? 車内で犯罪発生? 西村京太郎のミステリー小説じゃあるまいし、勘弁してくれよ。
停車して5分ばかり経った頃、
「ただいま車内の点検を行っております。御坊でお降りのお客様はお席でお待ち下さい」
すぐには「点検」が終わらないという意味であろう。ということは、
……ま、まさか爆破予告とか? いや、それなら列車内を「密室状態」で維持する理由がない。
警察官がいたのはホームの和歌山方で、客を誰も降ろさない状態で6号車乗務員室扉から乗り込むつもりなのであろう。やがて、ちょうど窓の外に立っていた駅員に、別の一人が近づいて、
「もしかしたら海南の手前やったかもしれん、言うとるらしいで」
という声がガラス越しに聞き取れた。盗難? 痴漢?
しばらくすると、前後を警察官2人ずつに挟まれた被害者と思しき派手な服装の女性が(後方から)現れ、そのまま運転台側へ消えた。果たして『警察が列車を止めて被疑者の身柄確保を図る』ほどの事案とは何だったのか……
後を追うようにトイレから戻ってきた客が、連れに向かって、
「後ろの方、なんや一人一人調べられてたみたいやで。グリーン車は素通りか」
被疑者は自由席(2・3号車)の乗客、ということになっているらしい。で、そいつは海南で降りてしまった可能性も出てきた、という状況のようである。
誰かが逮捕や連行された気配のないまま、ようやく客用扉が開けられ、20分遅れで御坊を発車。臨時快速の発車時刻までに紀伊田辺へ着けるかどうか、怪しくなってきた。
そして、無関係な筈の事象が必然であるかのように連続して起きる……という、筆者には珍しくない「パターン」がここでもまた惹起した。してしまった。
通過駅である筈の南部に停車。
「運転士が関係機関との連絡を行うため、南部駅に停車しています。ドアは開きません」
その理由は……紀伊田辺付近で雨量が規制値を越えたため。芳養から先は徐行運転だと。
これで、もし一部区間で臨時快速「紀の国トレイナート号」が運転された場合でも乗継が不可能であることが確実となった(2面3線の紀伊田辺では、ホーム容量上、遅れた特急の接続待ちは出来ない)。現地では「十中八九(臨時快速の)田辺以南は運休だろう」と判断していたけれど、そんなことよりも、最悪の場合「運転見合わせで帰れなくなる」虞れが出てきた。
芳養をノロノロと通過し、約40分の遅れで紀伊田辺到着。早速、構内を見回すも……
「紀の国トレイナート号」用と思しき車両の姿はない。運用上は紀伊田辺→御坊→紀伊田辺→串本→紀伊田辺で、予想に反し区間運転が決まってもう行ってしまったと考えるのが自然であった。
実際のところどうなのか、駅員に確かめてみようという気力は既にナシ。
雨は小康状態ながら、橋梁で越えた河川はどれも茶色い濁流となっており(事前の雨量チェックはすさみ町と串本町しかしておらず、南紀白浜空港の雨量データは24時間計50mm程度だったため油断していた)、一刻も早く引き返したかった。
手持ちの指定券(特急券・グリーン券)は、周参見から御坊までと、一本後の特急で御坊から天王寺まで。途中で切った理由は、どこかで降りないと晩飯抜きになってしまうこと。それを御坊にしたのは、駅付近にコンビニの所在が確認出来ること、南部-岩代-切目を明るいうちに通りたかったこと。
運転見合わせは周参見から先、特急は全列車白浜で折り返し、という運転状況だから、旅客営業規則の「解釈」が厄介ケースになってしまった。乗車券は串本まで買ってあるとはいえ、天王寺駅発車時点で「周参見-新宮運転見合わせ」は既定事項だったから。
幸い、紀伊田辺の駅員はいつぞやのJR東日本会津若松駅と違い良心的であった。
「まもなく新大阪行の特急が来ますから、自由席にお乗り下さい。お持ちの切符がグリーン券なので、空きがあれば車掌がグリーン席に案内することになると思います」
それは特急列車が途中で運転打切となった際、後続列車に乗る場合の取扱では……と思いきや、この文章を書くに当たって調べてみたら駅員氏が正しかった。向こうは本職なのだから当たり前だろ、とお考えの読者もおられようが、現実はそうでもないのである。
払い戻しについては「未使用分の特急券だけここで払い戻し……」と言いかけて首を傾げ、結局「事故」のゴム印と『大雨の為』という赤インクの手書きを全ての切符に入れて「天王寺で手続きを」と処理を丸投げ……と書くと可哀想か。記入を終えたときには、既に本来なら新大阪行の特急が発車する時刻を過ぎていたから(15分遅れで入線)。
マメな書き手なら、払い戻し前のゴム印押し切符を座席のテーブルに並べ、写真に残して画像をアップロードするところだろうけど、そんな面倒なことはしていない(爆笑)。切目川から北は茶色に濁ってもおらず、少し「乗りテツ気分」を楽しめた。
検札では、手持ちの切符を見せて「引き返しですぅ」と言ったら、
「天王寺までですね」と確認しておしまい。
……あれ? グリーン車は?
まぁ、15席しかない「クモロハのロ」で通路側B席をあてがわれるよりは自由席の方がいい。
定時から30分遅れで無事に大阪市内へ帰還。
天王寺駅清算窓口の係員は、あの会津若松駅と同じようにどこかへ電話し、受話器を持ったまま、
「帰りは特急に乗られたんですよね」
などと確認してきたが、
「紀伊田辺の駅員が『自由席に乗ってくれ』と言うので、それに従ったんですけど」
という説明がすんなり通って、最終的には、
『往路の特急券は使用済の扱いとなります。他は全額払い戻します』
という結論になった。かくして「無賃送還」初体験!
往路の特急料金だけで、紀伊田辺まで往復の『乗りテツ』しちゃいました。
警察騒ぎあり、帰れなくなる恐怖あり、往路はあまり楽しくなかったし、何より「クロスシートの電車で見老津へ行って、特急列車2本を撮影」という夢のような計画が幻に終わったのは悲しい。
帰宅後、JR西日本公式サイトを調べたら、
<臨時列車>
本日の「紀の国トレイナート号」は、往路の白浜~串本駅間及び復路の串本~紀伊田辺駅間の運転を取り止めます。
とのこと。周参見までの区間運転を期待して、出発を中止しなかったのだけれど(紀伊日置で降りて明光バスで白浜へ戻る行程を、往路の特急に乗る時は考えていた)、白浜までとは予想外。
同一時刻でまた運転してくれないかなぁ。
気を取り直して「撮りテツ本線運転」 |
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